藤原辰史「給食の歴史」

たつきち、また本買いたってよ」

ということで、京都大学ソフトテニス部&総合人間学部の後輩である、たつこと、藤原辰史くん@京都大が岩波新書「給食の歴史」という本を出してました。

 

給食の歴史 (岩波新書)

給食の歴史 (岩波新書)

 

 

農業史が専門の藤原くんなので、歴史学者として給食を取り扱っており、給食史として5つの視覚から給食史を捉えることを目的としています。

(1)子どもの貧困対策
(2)災害大国の給食
(3)運動史
(4)教育史
(5)日本の教育史の世界史への位置づけ

教育系の研究者としては、やはり(1)と(4)、個人的には、特に(1)の貧困対策に興味を持って読みました。

学校給食は、地域によってかなり違うので、自分の経験だけでは語れない(まあ、教育そのものが、本来はそうなのですが)わけですが、給食の合理化(センターによる一元化)のメリット・デメリット、新自由主義行政改革との関係、教員による反対、などいろいろな事象、課題があるのだな、ということを理解しました。

栄養確保としての給食、という意義は、現代においてかなり薄れてはきていますが、それでも貧困など家庭にいろいろな問題を抱えている子どもにとっての給食の意義は大変大きいな、と改めて感じました。なんとかいい形で、おいしい給食をみんなに提供できる仕組みを、各自治体で整備できることを願います。

給食、という身近なテーマで、さまざまな視点から歴史をみていくというのは、面白いですね。運動史などは、普段あまり読むことがなくて、知らないことも多いので、勉強になりました。教育系、貧困対策としての給食の問題については、食育を含め、今後も考えられることがあれば、と思います。

 

大森昭夫、成田秀夫、山本啓一、吉村充功 「今選ぶなら、地方小規模私立大学! ~偏差値による進路選択からの脱却~」

 

 

今選ぶなら、地方小規模私立大学! ~偏差値による進路選択からの脱却~

今選ぶなら、地方小規模私立大学! ~偏差値による進路選択からの脱却~

  • 作者: 大森昭生,成田秀夫,山本啓一,吉村充功,高見大介
  • 出版社/メーカー: レゾンクリエイト
  • 発売日: 2018/10/19
  • メディア: 単行本
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編者のみなさんで立ち上げられた「大学リーダーシップ研究会」で議論していく中で、でてきた4つの議題について、述べられています。

1)「偏差値教育」の崩壊
2)「まっとうな教育」をしている大学が選ばれる
3)教育改善には「組織開発」が不可欠
4)高校・大学・社会が連携した新しい「学びのカタチ」

個人的には、特に、2)、3)に興味があり、2)については広報の重要性、3)についてはガバナンス、マネジメントの重要性が問われるのだろうな、と思います。

巻頭の対談で、中原くん@立教大が「組織内政治をやりたくて研究者になった人は、ほぼいません。」(p.8)と言っているように、大学教員の多くは研究者志望であることから、この辺の問題はあります。ただ、大学も組織である以上、組織開発、組織内政治が必要ですし、その目的はあくまで教育や研究の改善・充実におかれることが大事だな、と思います。教員の意識をどうつくっていくのか、ということも大学の大きな課題ですね。

やはり、この本の魅力は、第4章から第6章に書かれている、北陸大学、共愛学園前橋国際大学日本文理大学の実践事例です。実際にどのように教育改善を組織的に行ってきたのか、ということが書かれていて、地方小規模私立大学だけではなく、どの大学においても参考になる知見が多く含まれていると思います。改革を推進する人や組織のマインドセットを把握、理解することができると思います。

私も今の立場でできることをやっていきたいと思います。

 

深沢真太郎「論理ガール 人生がときめく数学的思考のモノガタリ」

 

論理ガール 〜Lonely Girl〜 人生がときめく数学的思考のモノガタリ

論理ガール 〜Lonely Girl〜 人生がときめく数学的思考のモノガタリ

 

 

 

数学的思考によって、人間関係、お金、仕事、遊び、恋愛、未来について考える、ライトノベル風数学本。

数学モデルでいろいろな事象を説明すること、(言葉の)定義を明確にすること、すごく明解だな、と思いました。数学的思考の女子高生と経験重視のサラリーマンという対極の主人公をおいているのも、いいのかな、と思いました。

「先輩、恋愛ってコンパ悪くないですか?」と帯にありますが、第5章では、”ときめき”を数値化して考えたりしています。

数学が苦手な人にぜひ読んでほしいですね。わかりやすいと思います。

 

第6章にある、これらの言葉がすごくいいですね。心がけていきたいです。

「多くの言葉で少しを語るのではなく、少しの言葉で多くを語りなさい」ピタゴラス

「数学とは、人生を語り合うための最強の”言葉”である」(p.298)

 

松尾睦 編「医療プロフェッショナルの経験学習」

 

医療プロフェッショナルの経験学習

医療プロフェッショナルの経験学習

 

職業人の成長については「経験から学ぶ」という経験学習モデルが用いられることが多くあります。その際、コルブの経験学習サイクルがよく用いられます。ここでは、経験する→振り返る→教訓を引き出す→次に応用する、というサイクルとしています。

医療に携わるさまざまな専門職の経験学習プロセスを明らかにすることを目的として、キャリア段階(初期、中期、後期)によって、どのような経験内容からいかなる能力を獲得しているのか、分析しています。

看護師や救命救急医師、病院事務職員や病院長(のマネジメント)など、職種が多様ですが、その中での共通性、他の分野への汎用性なども見えて興味深いです。

看護師や救命救急医師の場合、キャリアに応じて、スキルから患者や家族とのコミュニケーション、死への対応や死生観へと広がっていく点は、なるほど、と思いました。

経験学習をいろいろな業種に適応して研究する上での参考になるとともに、看護系、医療系の方々と仕事をすることも多いので参考にしつつ、またいろいろ教えてもらえればいいな、と思います。

 

石山恒貴「越境的学習のメカニズム 実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像」

 

 

この本では、企業の人材育成における越境的学習について明らかにすることを目的としています。

前半では、越境的学習の定義や命題、境界についての検討、ナレッジ・ブローカーの定義を行い、後半では、前半で定義された越境的学習やナレッジ・ブローカー、実践共同体などの実際や関連性を明らかにするべく4つのリサーチクエスチョンを設定し、NPO法人二枚目の名刺とのプロジェクトにおける実証的研究の結果を紹介しています。

とにかく先行研究のサーベイや整理がものすごく丁寧で、OJT、Off-JT自己啓発、経験学習、状況的学習、実践共同体、バウンダリーレスキャリアなどとの関連や位置づけも分かりやすく説明されています。この点は経営学に限らず、幅広い分野の研究者にとって有用だと思います。また、ちゃんと勉強しないと、ですね。

個人的には、自分がナレッジ・ブローカーとしてどんな風にふるまえばいいのか、学んでいけばいいのか、ということを考えてみたい、と思いました。

 

 

中橋雄編著「メディア・リテラシー教育 ソーシャルメディア時代の実践と学び」

 

メディア・リテラシー教育―ソーシャルメディア時代の実践と学び

メディア・リテラシー教育―ソーシャルメディア時代の実践と学び

 

中橋くん@武蔵大編著で、久保田先生@関西大、鈴木先生@熊本大、中川さん@放送大、今野くん@明星大、佐藤さん@常葉大学らが分担執筆されています。

昨日の講演会で、学生から「メディア・リテラシーを教える必要があると思うのですが」という質問がありました。大学でも大人でも必要な能力ですが、小中高でどうやって教えていくのか、ということは大きな課題の1つだな、と思います。

大学教育にたずさわる私としても、2010年代になり、2000年代までと違って、本当にどうやって教えたらいいんだろう、、、と悩むことが多いです。情報が爆発的に増え、ここからどのように情報を取捨選択したり、おかしな情報を判断するのか、ということ、そして、それを教えるということの難しさに直面しています。

この本では、主として「メディア・リテラシー教育を研究する大学生・大学院生」「教職課程を持つ大学に所属する大学生・大学院生」を主たる読者として想定していて、小中高を中心に”どのようにメディア・リテラシーを教えるのか”ということについてまとめられています。

メディア・リテラシーを教える立場になる人、メディア・リテラシーを多角的に学ぼうという人におすすめの本だと思います。

 

梶谷真司「考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門」

 

 

 

梶谷先生は、京都大の人間・環境学研究科の先輩にあたります(分野は全く違いますが)。一度、勉強会でお話させていただきました。

ぜひ、みなさんにお薦めしたいな、と思いました。新書ですし、サブタイトル通り、老若男女、あまねく対象です。いわゆる学歴高い人こそ凝り固まった思考を自由にする必要がある気がします。

哲学対話は、哲学を学ぶために対話を通して、哲学を「体験」するための取り組みです。グループワークだと4、5人にしますが、哲学対話の場合は15~20人くらいがいい、ということでした。

梶谷先生は、哲学は「問い、考え、語り、聞くこと」としています。

哲学対話では、8つのルールを設定し、そのルールによって、いかに(思考の)制約を取り払うか、自由に問い、語ることができるのか、ということが説明されていました。

このことによって、”他者との対話を通して、他の人と一緒に自由になれる”ということです。

普段、どうしても、バカと思われるようなこと、人格を疑われるようなこと、などは言えないということも多いはず。

私自身、優等生として思考してきたことも多く、規範に縛られたり、人の顔色をうかがってしまうこともあって、自由に考える訓練、体験をしてみたいと思いました。対話、重要ですよね。1人でも2人でも実践できると思うので、やってみて、自由になってみたいです。